自民党の憲法改正草案をたたく(1)

 侵略戦争は他人事?

 自民党高村正彦副総裁によれば、自民党憲法改正草案は「たたかれ台」だそうである。

  「議論のたたき台というより、『自民がこう考えている』とたたかれるために出した、たたか

  れ台だ」 (http://mainichi.jp/articles/20160727/k00/00m/010/023000c

 
 なら、これはもう、「たたかれてもらう」しかないでしょう!

 で、第1回は、憲法改正草案の前文を検討します。

(前文)
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

 うーむ、あまりにも問題だらけで収拾がつきそうもない。が、そうも言ってられないか。
 まず、気になった点は、第二段落の「我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し」のところ。自民党改憲理由は「第二段落では、戦後の歴史に触れた上で、平和主義の下、世界の平和と繁栄のために貢献することをうたいました」とのこと。
           (自民党憲法改正草案Q&Aより)http://constitution.jimin.jp/faq/

 第二次世界大戦による「荒廃」と自然災害を同列にとらえている点が何とも笑えますね。地震津波の発生を防ぐことは、残念ながら、今の人類には不可能です。若干の予測と被害を減らす防災しか、今はできない。しかし、戦争は違う。戦争は人間の意志によってしか起こらないし、また、やりようによっては未然に防ぐ可能性もあります。
 人為と天災の区別もつかないが、自民党憲法改正草案ですね。

 また、「先の大戦」と「我が国」=日本との関係について、全く何も述べていない。「先の大戦」って「宇宙大戦争」でしたっけ?宇宙人の侵略でえらい目に遭ったのでしたね・・・いや、さすがに悪い冗談です。枢軸国(日独伊)と連合国(英米仏他)との間に繰り広げられ、ヨーロッパ全土とアジア各地各国を広く巻き込んだ戦争でした。その中で、1931年の満州事変、37年の日中戦争から中国大陸への進出、41年以降東南アジア各地等への日本軍の進出は、侵略戦争です。というか、常識です。こう言うと、欧米諸国も植民地獲得の侵略戦争をしてきたのだから、日本ばかりを「侵略」と呼ぶのはかわいそうで「自虐的」であり、それは「反日左翼や朝日新聞のでっちあげだ」というのが歴史捏造派の主張ですね。(私は、日本国籍を持つ日本人であると、ここで明言しておきます。「反日売国奴」呼ばわりや「○○へ帰れ」はお断りです。)

 つまり、自民党憲法改正草案では、自分たちにも大きな責任のある「先の大戦」を、あたかも他人事のように記述していることが、よくわかります。あまりにも無責任ではないでしょうか?

 日本は「侵略戦争」などしていない。南京大虐殺東京裁判によるでっちあげ。慰安婦朝日新聞による・・・だから日本は過去に大きな過ちなど犯したことのない「美しい国」である。こんな超観念的妄想を、憲法前文で事実として認定したい、国民に認めさせたい・・・こういう思いが透けてみえます。

 でも、所詮は歴史の捏造です。しかも、かなり悪質で低レベルの。こんなものがまかり通るようでは、世も末でしょう。やはり「たたかれてもらう」しか、なさそうです。

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 自民党憲法改正草案を検討するにあたり、憲法関連の書物を、順次紹介して行きたいと思います。
 トップバッターは、伊藤真著『赤ペンチェック自民党憲法改正草案』(大月書店)です。自民党憲法改正草案の問題点を、項目ごとに丁寧にチェックし、自民党による改憲理由、その批判と、よく整理されています。

  

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http://www.otsukishoten.co.jp/book/b110061.html